episode-3「二人のタケル」

主人公は、東京・丸の内で働く女性 倭奏(わかな)。
仕事に迷い、自分の進むべき道を見失いかけた彼女は、久しぶりに故郷・神川町へ帰省します。

冬の田んぼに舞い降りた白鳥。
静かな杉木立に包まれた金鑽神社。
そして城峯公園の冬桜。

その場所で倭奏は、自分と同じ オッドアイを持つ不思議な少年「タケル」と出会います。

彼が語る言葉は、倭奏の心に眠っていた記憶と、ひとつの真実を呼び覚ましていきます。

白鳥伝説と神話、そして家族の想いが重なる物語。

神川町の冬の風景とともにお楽しみください

【ペルソナ】
・倭奏(わかな:25歳/CV:宮白桃子)=東京丸の内で働くオッドアイのUIデザイナー。帰省中
・天翔(タケル:少年/CV:宮白桃子)=金鑽神社で出会った不思議な少年。実は倭奏の双子の弟

【冬桜 – 神川町観光協会|花と自然と歴史の町へようこそ】
https://www.kamikawa-kanko.com/category/news/flower/冬桜/

【日本武尊と白鳥伝説】
https://jswan.info/hpb/kaishi/25/25-2-7.pdf

ボイスドラマを聴く

【シーン1/新里地区の白鳥】

■SE/白鳥の鳴き声

「ただいま」

群れている白鳥たちに、私は声をかける。

神川町新里(にいさと)地区。
水を張った冬の田んぼに、白鳥は毎年やってくる。

私の名前は倭奏(わかな)。

東京・丸の内の証券会社で働いている。
給料はそこそこだけど、私、株や証券にまったく興味がないんだ。
だめだよね、これ。わかってる。

そんな私には、もう一つの名前がある。
ひらがなで「たける」。
Web漫画投稿サイトのハンドルネームだ。

幼い頃から絵が上手だと褒められ、調子に乗って漫画を描くようになった。
休みの日に遊び半分で描きためた漫画。
たま〜に投稿していた。
別にプロを目指していたわけじゃないけど。

その漫画が、あるWeb漫画サイトの編集者の目に留まった。

”うちで12本連載してみませんか?”

いきなりDMがきて、もうびっくり。

待って待って。
締切までに12本描くとなると、本業を休まないと。
それに、その先のことを考えると・・・
もうどうしたらいいの〜!?わかんないよ〜!

で、いまここ。
実家の神川に帰省中。ってか逃避行?

実家と言ってもいまは、両親も祖父母も親戚も誰もいないけどね。
仕事でちょっと行き詰まったりすると、こうして帰ってる。
都合のいいセカンドハウスって感じ?

そ。頭の中からっぽにして、白鳥の声を聴くの。
なのに最近、帰ってくるたびに心に何かが引っかかる。
大事なこと忘れてるような気がして・・・
なんだろう・・・

「本当に忘れちゃったの?」

え?
だれ?

周りを見渡しても人っ子一人いない。
あ〜、だめだ。
幻聴〜
私、本当に疲れちゃってるんだ。

そのとき、白鳥たちが一斉に羽ばたき、
神流川(かんながわ)の上空へと舞い上がっていった。

■SE/白鳥の鳴き声

【シーン2/金鑽神社のタケル】

■SE/冬の野鳥(ツグミ、ジョウビタキなど)〜神社の鈴の音〜二礼二拍手の音

金鑽神社(かなさな/じんじゃ)。

昔からなにかあるたびにここへ来ていた。

御神体は背後の御室山(みむろやま)。
奈良の大神神社(おおみわじんじゃ)や諏訪大社(すわたいしゃ)と同じ。
御神体を持たない神社。

冬の日差しが漏れる杉木立のなか、石段を一段ずつ踏みしめる。

お賽銭を投げ、お祈りして、顔を上げたとき、後ろから視線を感じた。
振り返ると私の真後ろに少年が立っている。
10歳くらい?

「情けないなあ。そんなにびびっちゃって」

「だれ?」

「ボクのこと?」

「当たり前でしょ。ほかにだれがいるの?」

「ボク?ボクは・・・そうだなあ・・タケル・・タケルとでも呼んでよ」

「なによ、それ?」

「だって仕方ないでしょ。名前なんてないんだもん」

イラっとしながら、タケルの顔をじっくりと覗き込む。
すると・・・

驚いた。

私と同じオッドアイをしている。
右目は淡い琥珀色、左目はグレーがかった青。

私は逆に、右目が青、左目は琥珀色。
まるで鏡を見ているようだ。

「昨日も言ったけど、ボクのこと覚えてないの?」

「昨日?」

ハッ。
まさか・・・

ゾッとした。
ひょっとしてこの子・・・人間じゃないの?

「人間だよ」

「え?
ちょっと・・・私、声に出してないのに」

「人間だった、って言った方がいいかな」

「ゆうれい・・ってこと?」

「失礼だなあ。そんな言い方」

「え・・・ご、ごめんなさい」

「ボクは君だよ、倭奏」

「ど、どうして私の名前を?」

「そんなことどうでもいいから」

「よくない」

「いま悩んでることって、ばかみたいだと思わない?」

「な、なんて?」

「人生なんて短いんだから、自分の進みたい道を歩かなきゃ」

「勝手なこと言わないで」

「勝手じゃないよ。
ボクは君だし、君はボクなんだから」

「もう〜。わかんないわかんない」

私は拝殿に向き直って、頭を抱える。

「じゃ、ボクもう行くね。
とにかく、そんなに悩まないで」

「ちょっと!」

振り返ったとき、もうタケルの姿はなかった。

え?
これって・・・ホントに幽霊じゃないの?

私は降り出した雪よりも、もっと冷えていく心を感じていた。

【シーン3/城峯公園の冬桜】

■SE/冬の野鳥(ツグミ、ジョウビタキなど) 
金鑽神社まで来たのだから、もう少し足を伸ばして城峯公園へ。
私は車を走らせた。
紅葉は終わってるけど、冬桜はまだ少し見られるらしい。

ああ、ホントだ。
吹雪に混じって、薄いピンクが舞っている。
今年は長いんだな。

そんなこと思いながら公園を歩いていると、スマホが鳴った。

「もしもし?」
「え?菩提寺?」

父と母が眠る菩提寺からだった。
そういえば私、父も母も、祖父も祖母も、位牌とか預けっぱなしだ。
我ながらだらしない。

「七回忌と十三回忌?ああ、祖父母と父母の・・」
「わかりました。近いうちに伺います」
「え?だれ?」
「タケル?」

衝撃だった・・・
どうして私の知らない名前の位牌があるの?
しかも、タケルって・・・

住職に聞いたら、私の弟だという。
私はすぐに、自分の生まれた産院に電話をする。

”個人情報ですが、ご家族でしたらお話しましょう”

そう言って身元を確認されたあと、院長が話してくれた。

タケルというのは、私の双子の弟。
私・・・一卵性双生児だったの?

それでも、タケルが生まれてくることはなかった。

バニシングツイン。

”双子のひとりがなにかの理由で亡くなり、お腹から消えてしまうこと”

うそ!

そんな・・・そんな!

父も母も祖父も祖母も、そんなことなんにも言わなかった。
きっと私を傷つけないようにって、黙っててくれたんだ。

私の瞳が二つの色を持っている理由。
それもこれもタケルがいたから。
そう思えてしまう。

天翔る(あまかける)と書いてタケル。
父と母が水子供養だけではなく位牌まで作っていたのは、
それほどまで思いが強かったってこと。

「人生なんて短いんだから、自分の進みたい道を歩かなきゃ」

・・・ホントだね。
わかったよ、天翔。
もう私、迷わない。

決めた。漫画の道へ進む。

「うん。それがいい」

迷いは、霧が晴れるように消え去っていた。
右目の琥珀と左目の青。その両方に力が宿る。

それに、家賃の高い東京に住み続ける必要なんてないよね。
ここ神川へ戻って、実家にwifi置いて、真剣に漫画を描くよ。
そうすれば、いつでも天翔に会えるもの。
でしょ。

ねえタケル、聴こえる?

これからは、私と一緒に生きていこう!
人の一生なんて、短いんだから!

私は、金鑽神社の方へ向かって叫んだ。
吹雪が城峯公園の冬桜を舞い上がらせていく。

真っ白に染まる世界の中。
桜吹雪に乗って、一羽の白鳥が力強く羽ばたいていった。

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